2012年7月15日日曜日
映画『からっぽ』 監督 ; 草野翔吾
体も、声も、今にも消え入りそうにか細いが意外にしぶとくたくましい。そんな高校生の加藤小判(コバン)とちょっと謎めいたシーナという女性の物語り。舞台は群馬県桐生市。一見殺風景な街並みや雑草生い茂る河川敷が、なぜかこの物語りにあっていた。
冒頭から30分ほどしてにんまりしてしまった。「この映画、期待した以上に面白い」と思ったからだ。高級ワイン付きフランス料理の豪華さはないが、地方都市の場末の食堂の定食の良さがある。定食といっても例えばお握りと蕎麦の定食セットのようなもので、ほんのりと故郷の味がして食後はどこかほっとさせる満腹感がある。オタクっぽい脇役陣も定食に添える薬味のように実にいい。
草野翔吾監督の故郷への思い入れもあって桐生が撮影地になったのだろうが、この地を舞台にしたこともこの映画の良さを引き出している。幼くして両親から捨てられ存在感も極めて薄いが瞬間移動という特殊能力を持つコバンと、東京から恋人を追いかけてきた孤独なシーナが出会う舞台装置として、疲弊していく地方都市の街並や人々は不思議と彼らを包み込むようにあたたかい。なぜなのだろう。バブル経済の崩壊後に生まれ若者に冷酷な社会状況(この映画は見方によっては若者の実態をリアルに描いている)と、戦後の大きな産業構造の転換によりかつての栄華を失った街との相似性からだろうか。しかも、しぶとく生き残ろうとする姿勢も両者に共通している。
若手監督とスタッフの将来の映画づくりに期待して注文も少し。ひとつはシーナの過去が明らかになる中盤あたりからストーリーが見えてしまったこと。そのぶん前半に比べて相対的に人間描写が軽くなった(ように思った)。ふたつめは後半部分のカッパ伝説に関連して。市の町おこしのための広報番組になってしまったきらいがある。広報化が悪いのではない。コバンとシーナの物語りに徹すればもっと面白い映画ができたはずだと思うし、あえて「町おこし」をしなくともこの映画は桐生市の良さを存分に示している。なぜなら、先に述べたように地方都市の存在感は孤独な彼らを包み込むあたたかさにあるからだ。
可能性を秘めているという点で映画はまだ若い芸術なのだと草野翔吾監督の『からっぽ』を観て思った。若きスタッフたちには時代への軽い抵抗も含めた次回作を期待します。
◎映画『からっぽ』
・上映劇場(118分)
・監督:草野翔吾 脚本:横川僚平 、草野翔吾
・キャスト: 清水尚弥 、平愛梨 、三浦誠己 、山本浩司 、向清太朗 、
伊藤毅 、橘実里 、岡田浩暉 、大杉漣 、品川徹 、宮下順子
※東京都市モノローグ2011年の総集編(漂流する東京)
http://www.utsunomiya-design.com/photograph/tokyophoto1.html
http://www.utsunomiya-design.com/photograph/tokyophoto2.html
http://www.utsunomiya-design.com/photograph/tokyophoto3.html
text ; Utsunomiya Tamotsu
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