2012年8月19日日曜日

映画『こうのとり、たちずさんで』 監督:テオ・アンゲロプロス

◎TOKYO PHOTO  ; TO METEORO VIMA TOU PELARGOU 7.2012
時間が制止し息を飲んだ。スクリーンに映し出されたマルチェロ・マストロヤンニとジャンヌ・モローの、その表情に刻印された悲しみと存在感。難民が肩を寄せ合って暮らす、殺伐とした冬の北ギリシャの寒村での二人の出会いと別れは、不条理にも愛する者たちを隔てる「国境」というこの映画の主題と重なる。

こちらの岸に花嫁がいて彼岸には同じアルバニア人の花婿がいる。村人の祝福を受けながら国境線となっている川を隔てて行われる結婚式が印象だった。このシーンを独特な長回し映像で捉えたテオ・アンゲロプロスは、若い二人の間に流れる深い川(国境)を冷酷な存在として象徴的に描く。

この場面に音楽は流れない。言葉もない、村人は手にした民族楽器も奏でない、ただ、川の流れと森の小鳥たちの鳴き声だけが聞こえる。そこに突如として鳴り響く一発の銃声。散り散りにその場を追われる村人たちの背中を追うように短調な音楽が流れる。あまりに美しいこのシーンは、国境の悲劇を主題とするテオ・アンゲロプロスの怒りの表現でもある。

かつてギリシャ政界の期待の星といわれた政治家(マルチェロ・マストロヤンニ)は妻(ジャンヌ・モロー)の元を離れ失意の旅を続けるが、その初老の男の前にはペンキで引かれた太い国境ラインが横たわる。「異国に飛んで行けるか、あるいは死か」。精神と現実世界との混乱のなかに生きる主人公の自由への渇望は、その
国境ラインを前にして、飛翔する瞬間のこうのとりのように立ちずさむ。

この作品で、旅と国境を
重層的に描いたテオ・アンゲロプロスは、今年1月アテネ近郊の病院で永遠の旅についた。

◎こうのとり、たちずさんで(1991)
TO METEORO VIMA TOU PELARGOU
監督・脚本;テオ・アンゲロプロス

※東京都市モノローグ2011年の総集編(漂流する東京)
http://www.utsunomiya-design.com/photograph/tokyophoto1.html
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http://www.utsunomiya-design.com/photograph/tokyophoto3.html

文;宇都宮 保

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