出だしは凄惨な遺体の発見現場。殺されたパロミノ・モレーロは、ペルー北部の都市でギターを片手に歌を歌っていた気のいい混血青年。誰がなんのために彼を殺したのか。警官のリトゥーマと彼の上司のシルバ警部補は犯人を執拗に追うことになる。
パロミノは兵役を免除されていたのにも関わらず、自ら志願してペルーのタラーラ空軍基地に入隊した。母親に自分にとって入隊は「生きるか、死ぬかの大問題だ」と告げて。
犯人は空軍基地内にいると睨んだリトゥーマとシルバ警部補は、基地の司令官、白人のマンドゥロー大佐に捜査への協力を求めるが、非協力的。しかしシルバ警部補の巧妙な誘導で次第に大佐の顔色が変わってくる。
推理小説としてのストーリーは非常に明快で、数ページ読み進むうちに犯人もおよそ予想がつくようになる。リトゥーマとシルバ警部補は基地や酒場、僻地にある小さな村などを訪ね、パロミノの足跡を追う。パロミノはマンドゥロー大佐の娘に真剣な恋をして、駆け落ちしようとして僻地の村にたどり着いた。数日後、男たちがパロミノをとらえ連れ去る。そしてパロミノは無惨に殺される。
少しづつ明らかにされる真相。犯人がわかり事件は解決したかに思われたが…。
事件についてあれこれ噂する住民たちの間では、軍の密輸がらみで消されたとか、スパイがやったとか、同性愛が絡んでいるとか、とんでもない話がまことしやかに語られる。事件を解決したはずのふたりが、事件の謎を深追いしすぎたせいで、遠い山の方へ転勤させられる、という落ちまでついて終わる。
この町に住む人たちにとって正義や真実は常に懐疑的なのだ。若いのに老練でしたたかな捜査をするシルバ警部補と年が上なのに捜査官としては未熟なリトゥーマのやりとりや、仕事では手練の技を見せるシルバ警部補が女性にはからっきし弱い。そんなラテンの気質をうかがう面白さもあった。
◎著者:マリオ・バルガス・リョサ/訳:鼓直(つつみただし)
1936年生まれのペルーの小説家。ラテンアメリカ文学の代表的な作家でありジャーナリスト、エッセイストでもある。主な作品に『都会と犬ども』『緑の家』『世界終末戦争』など。1976年から1979年、国際ペンクラブ会長。2010年「権力構造の地図と、個人の抵抗と反抗、そしてその敗北を鮮烈なイメージで描いた」としてノーベル文学賞を受賞。ペルー国籍のノーベル賞受賞は史上初。
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