著者は1944年ドイツ生まれ。社会派の弁護士で、作家としてはそれまでにミステリー小説を3冊出しただけで無名に近かった。1955年に出版した本著『朗読者』がベストセラーになる。20カ国以上で翻訳され、アメリカでは200万部を超えるミリオンセラーに。2008年には『愛を読むひと』のタイトルで映画化され話題を呼んだ。
15歳の少年ミヒャエルは、学校からの帰宅途中に具合が悪くなったところを母親ほどの年齢のハンナに助けられる。お礼の花束を持ってハンナの部屋を訪ねたミヒャエルであったが、ハンナの持つ大人の魅力に惹き付けられ、一週間後また彼女の部屋に行ってしまう。ハンナを手伝って石炭を運んだミヒャエルは煤だらけになり、言われるままに風呂に入る。
バスタブから出る彼を、大きなタオルで抱きしめたのは裸のハンナだった。二人は愛し合うようになる。ハンナから本を読んでほしいと請われると、学校の教材の『オデュッセイア』から『戦争と平和』まで毎日読み続ける。朗読し、シャワーを浴び、愛し合い…2人の時間は朗読によって一層濃密なものになっていった。
そんなある日、ハンナは突然姿を消した。
数年後、大学の法科に通うようになったミヒャエルは「強制収容所ゼミ」で実際の裁判を傍聴する。そこで再会したのは法廷に立つハンナだった。ハンナはナチ親衛隊の収容所の看守として、戦争犯罪に問われ裁かれている5人の女性のひとりだったのだ。彼女らが起訴されたのは、アウシュビッツに送るための囚人選別を行ったこと、囚人を閉じ込めていた教会が爆撃され火の手があがったとき、扉を開けなかった為にほとんどの囚人が焼死してしまったことによる。裁判が進むにつれて、他の4人の被告はハンナを主犯格に仕立てあげる。ハンナも闘うが次第に追いつめられ、“ある秘密”の露見を恐れて全面的に罪を認めてしまう。
この本には読者の心を揺らす展開が何度も用意されている。21歳も年上のハンナとの恋。姿を消したハンナが戦争犯罪人であったこと。彼女が秘密をもっていて、そのことで無期懲役という重刑につながったこと。ミヒャエルはある時ふと気付く。ハンナがどうしても隠し通したかったことが何であったかを。服役中のハンナに対し何年もの間ミヒャエルのとった行動とハンナの思い…。著者ベルンハルト・シュリングはふたりの物語を通して、過去に犯した罪をどのように裁き、どのように受け入れるか…そのことを問い、深い余韻を残す。
文:長谷川京子
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