2011年7月12日火曜日

映画「ラルジャン」監督;ロベール・ブレッソン

◎TOKYO PHOTO  ;  L’ARGENT (Robert Bresson) Sunday.7.2011
軽いノリで若者二人がニセ札を作りカメラショップで使う。そのニセ札が糸のようにつながっていって無実の人間をいつしか凶悪な犯罪者に仕立てていく。ブレッソンはこの映画で真の恐怖とは何かを私たちに突きつける。

どの登場人物も寡黙であり、怒りや悲しみの表情をあらわにしない。ブレッソンは全編を通して感情を異様に抑制し、それがかえって高い緊張感をもたらしている。冤罪で収監された夫を妻が面会に来るシーン。妻が夫の元を去った後にすれ違うように、別の囚人に面会に来た幼い子どもが短いショットで入るが、ストーリィと関係のない、例外ともいえるその無垢な笑顔が不思議な印象を残す。

カメラを固定した映像技法。登場人物はそのカメラフレームの中に入り、一連の動作を経て出て行く。そのショットが幾度も繰り返される。カメラが移動する際は静かに主人公の背中を追うだけで、ブレッソンは人物のクローズアップなど誇張した表現を使わない。

犯罪者である若者の複数の物語りが同時に進行し、やがて重なり合い、最後は主人公の無差別ともいえる殺戮で終わる。ブレッソンは、彼らがどういう境遇にあったのか、なぜ殺戮に至ったのかといった人物像や心理を細かく描写しようとしない。「泥棒は泥棒する。殺人者は殺人する」(『ゴダール革命』蓮見重彦氏)ことが淡々と描かれるだけである。

この映画は80歳を越えたブレッソンの遺作。原題の『L’ARGENT』はMONEY(金)の意味だという。ニセ札を軽いノリで使った若者の家庭の裕福さと、妻と子をかかえ真面目に働いていたはずの主人公。その対比的な描写は鮮明で、裕福な若者ではなく貧しい主人公が凶悪な犯罪者に堕ちていく姿に、時代を超えた社会の不条理と一貫したブレッソンのテーマ性を感じる。

◯『ラルジャン』(85分/カラー)
“映画の國 名作選Ⅲ ロベール・ブレッソンの芸術”
7月15日(金)まで
渋谷シアター・イメージフォーラムにてニュープリント版で上映中。
www.eiganokuni.com/meisaku3-bresson/

文:宇都宮 保

0 件のコメント:

コメントを投稿