本郷図書館でリサイクル本として無料提供されていた本の中に、宮部みゆき『孤宿の人』(上)があったので、(下)は図書館で借りて、読了した。
時は江戸時代、徳川十一代将軍、家斉(いえなり)公の頃。物語の舞台は四国の小藩・丸海藩。9歳の“ほう”は江戸・内神田の若旦那が奉公人に生ませた望まざる子供で、金比羅様詣でに連れてこられた途中で、捨て子同然に置き去りにされてしまう。幸いにも藩医を務める井上家に引き取られるが、やさしく“ほう”の面倒をみてくれていた井上家の娘・琴江が毒をもられ死んでしまう。
その頃丸海藩は、江戸で幕府の勘定奉行職にありながら、妻子や側近を切り捨てたとして流罪の身となった加賀殿を迎え入れるという、大変な役目を強いられていた。加賀殿は丸海に災厄を運んでくる悪霊、と領民は恐れおののき、領内はざわついていた。領内には不審な毒死や災いが立て続けにおこるようになる。
“ほう”は阿呆の“呆”だと言われ、江戸では邪魔者扱いされていたが、丸海に来て、井上家を去った後は、引手見習いの宇佐と姉妹のように暮らしていた。“ほう”は、誰も近づきたがらない加賀殿が幽閉された涸滝の屋敷に、下女として入ることになり、やがて加賀殿と心を通わせるようになる。加賀殿から毎日字を習い、数を習いしていくうち、加賀殿が罪を犯した人だとは思えなくなってくる。
実は丸海藩内に闇があって、この加賀殿騒動を利用している者たちがいるとが少しづつ明らかにされていく。真実を語れないまま闇に葬られていく善良な人たち、丸海藩を守るための秘策を水面下で進める井上家の舷洲・啓一郎親子、もうひとりの主人公ともいえる宇佐の死、などなど読み応え十分。何といっても、“ほう”の汚れのない無垢な心根が身にしみる。
text;Hasegawa
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