7月13日、午後3時から東京大学で開かれた公開シンポジウム『観てから読むか、読んでから観るかー文学と映画のあいだー』を聞いてきた。司会は文学部教授(フランス文学)の野崎歓氏。出席者は文学部教授(ロシア文学)の沼野充義氏、文学部准教授(アメリカ文学)の諏訪部浩一氏と小説家の辻原登氏。このシンポジウムは、文学作品の映画化を切り口に、文学と映画の相互関係について東大文学部の教授陣が縦横に語った本『文学と映画のあいだ』が、東京大学出版会から刊行されたことを記念して行われたもの。
まず出席者がそれぞれ20分程度の話をした。沼野氏は自身がこの本の中で書いた“ここでしか教えてもらえない、ロシア文芸映画を観る5つの効用”と題し、トルストイやドフトエフスキー作品などの映画への影響や、読めば何日もかかる長大なトルストイの文芸作品が数時間で全貌を理解できるなど、映画の効能を楽しく語った。諏訪部氏は1930年代のアメリカのノワール小説とフィルム・ノワールについて話した。『マルタの鷹』の過去3回作られた映画のシーンをあげながらその違いについて解説して興味深かった。
辻原登氏は、熊野古道のある和歌山県田辺市生まれ。人口が6、7万人くらいの町に映画館が7つもあって、子供のころから映画をずっと観てきて、自分の中に映画と文学の区別はないと、朴訥と語りはじめる。氏は1990年「村の名前」で芥川賞、1999年『翔べ麒麟』で読売文学賞、2000年『遊動亭円木』で谷崎潤一郎賞、2005年『枯葉の中の青い炎』で川端康成文学賞、2006年『花はさくら木』で大佛次郎賞を受賞し、その他著書多数。
シンポジウムでは辻原氏の『冬の旅』について意見が交わされた。心理描写はいっさいなく、またそうなる動機があるというのではなく、偶然のようにさまざまな出来事に巻き込まれ悪いほうへ悪いほうへ落ちていく主人公の姿は、ロベール・ブレッソンの映画「ラルジャン」を凌ぐと他の3人は語る。「ラルジャン」はトルストイの「にせ利札」が原作。
出席者4人が別々の専門のアプローチから語り、それぞれの個性の違いがでていて、また法文二号館の教室全体が、文学と映画好きという空気に満ちていてとても楽しかった。学生からサラリーマン、年配の人まで立ち見が出るほど盛況。終わったときは感動の拍手で包まれた。
翌日、『冬の旅』が読みたくて文京区立図書館で予約しようとしたら、なんと40人待ち。数ヶ月待たなくてはならない。
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◎東京都市モノローグ2011年の総集編(漂流する東京)
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text;Hasegawa
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