2013年7月14日日曜日

ジョセフ・E・スティグリッツ著『世界の99%を貧困にする経済』を読む

昨年出版されベストセラーになった本著を文京区の図書館で予約してから半年。ようやく手にして読むことができた。この本の解説や感想はマスコミやブログで数多くでているので、本の紹介というより個人的に感じたままを書いてみたい。

 本著の前に、東日本大震災が起きた直後に出版されたロバート・B・ライシュ著『余震 そして中間層がいなくなる』を読んだ。この本では、アメリカの「中間層」の蒸発とその深刻さが書かれていたが、『世界の99%を貧困にする経済』でも、1%の富裕層による99%の富の収奪が、その仕組みとともに明らかにされる。つまり、ロバート・B・ライシュとジョセフ・E・スティグリッツによる両著は、中間層の蒸発と、その表裏にある99%の貧困を主題としている点で共通している。ちなみに、ロバート・B・ライシュはクリントン元大統領の労働長官だった人で、ジョセフ・E・スティグリッツも同大統領の経済諮問委員会の委員長だった。ともにノーベル経済学者でもある。

本著は、アメリカでいま何が起きているのか。それを知る手がかりとしては格好の本といえる。 印象的なのは、アメリカにおいて不公平と不平等が大きく拡大した結果、貧困層が一代で名声と富を築くアメリカンドリームは今となっては「おとぎ話だ」と断じていることだ。貧困層から富裕層への階層の移転もほとんどないという。高学歴と富みを手にしたごく一部の階層の人々は彼らの子どもの代にもその富が受け継がれ、いっぽうで、貧困層に生まれ十分な教育を受けてこなかった人々は子どもの代にもその貧困が受け継がれていくというのだ。

 2008年のリーマンショックを経てNYダウは上昇を続けている。この点だけをみれば順調にもみえる経済だが、それとは裏腹に、この間の富は上位1パーセントの富裕層によって収奪されてきたと指摘する。経済のパイの拡大による中間層、貧困層へのトリクルダウン「おこぼれ効果」も明確に否定する。それだけでなく、今回の経済危機により、多くのアメリカ国民は20年間の貯蓄が一瞬にして消滅する結果を招き、よりいっそう、中流層の空洞化と極貧世帯の急増を招いているという。

 本著では、「1人1票」ではなく、現実は「1ドル1票」となっているアメリカ社会の民主主義の危機にも言及している。近年、民主化を求める「アラブの春」のうねりがアメリカにも広がり、人々をウォール街への抗議行動に駆り立てたことは記憶に新しいが、この民衆の行動も「1%の1%による1%のための政治」を批判したスティグリッツの雑誌論文による影響が大きかった。

 最後に、本著は10章から構成されているが、第8章では「緊縮財政という名の神話」と題し、例としてIMF(国際通貨基金)がとってきた各国への政策を批判している。IMFへの批判としては一定の説得力を持ち共感できる部分があるものの、金融緩和と公共事業という名の財政出動を拡大してきた結果、産業構造の転換が遅れ、国の債務が膨らみ続けてきた日本では、果たして従来のケインジアン的な発想でいいのかという疑問も感じる。「アベノミクス」における3本の矢のうち、金融緩和と財政出動の2本の矢は、すでにひびが入っている可能性すらあり、もう1本の矢である成長戦略の足をひっぱる可能性が高い。

 本著では日本経済への直接的な言及はない。だがスティグリッツは冒頭で、不公平と不平等の拡大による貧富のいっそうの拡大と民主主義の危機は、日本では起きないと誰が否定できるだろうと警鐘を鳴らしている。事実、単位労働時間あたりの賃金や給与総額の減少、長時間労働の常態化、最新の統計でも38%を越えた非正規労働者の急増、6人に1人とされる子どもの貧困率に象徴される貧困層の拡大、教育における不平等などは、アメリカ社会とほとんど同じといえる。いやむしろ、膨大な国家債務に加え、生産労働人口の急速な減少や少子高齢化など構造的な問題に直面する日本は、アメリカ社会よりさらに深刻なのかもしれない。

◎PHOTOS OF TOKYO CITY by t.utsunomiya
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◎東京都市モノローグ2011年の総集編(漂流する東京)
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text;Utsunomiya

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