2012年4月19日木曜日

映画『トゥルー・グリット』 監督;コーエン兄弟

◎TOKYO PHOTO  ; TRUE GRIT   18.4.2012







物語りはシンプルで14歳の少女が父の仇を討つため保安官を雇い復讐を果たすまでを描く。舞台は無法者が闊歩し保安官やガンマンが活躍していた19世紀後半のアメリカ中西部。

『ファーゴ』の猟奇性といい、『ノーカントリー』の冷酷な連続殺人といい、コーエン兄弟が描く登場人物にはぞっとする恐ろしさが漂うが、この映画はそうではない。14歳のマッティは弁護士顔負けの饒舌さで仇討ちの金を手にする利発な少女として描かれる。大酒飲みの保安官コグバーンは戦いに疲れきった老いた猛獣のようだ。この二人と旅をする賞金稼ぎの若きテキサスレンジャーのラブーフは誇り高くどこか臆病者。追われる無法者たちさえ泥臭い人間味がある。

少女マッティは追跡の後、ついに自らの銃で亡き父の復讐を果たす。その反動で岩場に落ち毒蛇に手をかまれるが、保安官コグバーンは少女マッティを助けるため夜通し馬を走らせ人家に向かう。その二人が夕陽を浴びて草原を走るシーン、疲れきった馬の体から吹き出る汗とその悲しげな表情、息絶えようとする馬を射殺する保安官コグバーン。こうしたクライマックスの描写はコーエン兄弟にしては珍しく、CG(コンピュータグラフィックス)で戦争の恐怖をリアルに描いた『プライベートライアン』を想起させる異様な美しさだ(この映画の製作総指揮はスピルバーグ)。

「トゥルー・グリット」(真実の勇者)は誰なのか。少女マッティを救った保安官コグバーンなのか、保安官コグバーンを救った若きテキサスレンジャー・ラブーフなのか、困難を乗り越え復讐を果たした少女マッティなのか。これまでコーエン兄弟が描いてきた人間心理の異常性や恐怖は感じないものの、そういう問いかけが楽しめる彫りの深い人間描写が魅力的な映画だった。

◯作品データ
監督・脚本・編集:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
製作総指揮:スティーブン・スピルバーグほか

※東京都市モノローグ2011年の総集編(漂流する東京)
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文;宇都宮 保

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